1 week
海岸まで下りて
2人で黙ったまま波の音を聞いた。

口を開けば喧嘩になるからお互い黙るしかなかった。

陽が傾いて海が赤く染まっていく。

「そろそろ羽海のお迎えに行かなきゃ。」

私が立ち上がると宇宙が私の腕を掴んだ。

「キスしよう。」

「え?」

「このまま帰ったら気まずいだけだろ?

とりあえずキスして帰ろう。」

とりあえずって何なのかと思ったけど…

私は宇宙と初めてのこの海に来た日のことを思い出した。

あの日は2人とも緊張して
デートはうまく行かなかった。

私が観たいと言った映画は宇宙が途中でイビキをかくほどつまらない恋愛映画で
宇宙が連れて行ってくれたレストランは
気取ってるだけで全く美味しくなかった。

最後に2人でこの海に来て宇宙は言った。

「とりあえずキスだけしとく?」

その言い方がおかしくて笑ってしまった。

宇宙とした初めてのキスだった。

それからプロポーズされるまで
この海には何度も来た。

2人の間に何かあるたびに
ここに来てキスをした。

出産してからは来てなかったけど…
その事すら忘れていたけれど…

宇宙もあの頃に戻ってやり直したいのだと思った。

私は宇宙とキスをした。

宇宙はすごく優しいキスを何度も何度もして
私の凍ってる心を溶かした。

そして車に乗ると羽海を迎えに行く前に
宇宙はそこで私を抱いた。

変な気分だった。

結婚して何年も触れる事の無かった宇宙と私は
この3日で3回も身体を重ねた。

付き合いはじめのカップルみたいに
宇宙が私を欲しがって
私は宇宙に感じてる。

終わった後のクルマの中が熱気を帯びて
私は窓を開けた。

白い腕を外に出すと冷たい風が肌を撫でる。

宇宙は照れ臭そうに何も言わずにタバコを吸っている。

「じゃ、そろそろ帰るか?」

「うん。」

私たちは帰りの車内でどちらともなく手を繋いだ。

そして羽海を迎えに行って、近所のファミレスで三人でご飯を食べて帰った。









< 26 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop