恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
 よせばいいのに… 

 思っていても体が動いてしまう事がある…


 一時間程残業をして、社員通用口を出ると課長の後ろ姿が目に入った。

 私はダメだと解っているのに、少し離れて後を付けてしまった。



 駅近くのショップなどが並び、人が溢れる中に課長は身を潜めるように立っていた。

 予想はしていた、でも見たくは無かった…

 赤い車が道路に止まると、課長が辺りを確認しながら助手席に乗り込んだ。

 運転席に座っているのは美香だった。


 私は立ち止まったまま動けなくなってしまった… 

 目の前が真っ暗になったようで、山下課長の姿以外何も見えなかった……


 どのくらい立ちつくしていたのだろう?

「こんばんは……」
 脅かさないように気を使った小さな声に、私は我に返った。


「あっ、銀行の……」

「海原です」


「こんばんは」
 私はやっとの思いで笑顔を見せた。


 私、今どんな顔しているんだろう?

 この人、早く去ってくれないかな?

「あの、お忙しいですか? 五分だけ待っていてもらえませんか?」

 彼は私の思いとは反対の言葉を口にした。


「ええ……」私の曖昧な返事を聞かないうちに、彼は走り出してしまった。
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