恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
 いつものように銀行での手続きを済ませ、駐車場に停めてあった会社の車へと向かった。


「沖田建築様!」

 何事かと思うような声の主は、真剣な顔でこっちに突進してくる融資窓口の彼、海原さんだった。

 私は何かやらかしてしまったのかと思い声が出なかった。


「まだ、通帳をお渡ししていない物がありまして。すみません……」
 彼は息をきらして近付いて来た。


「そうでしたか…… すみません、私も確認してなくて」


「車でお待ち下さい。僕が持ってきますので……」
 彼は言ってくれるが、そういう訳にもいかない。


「いいえ、私も取りに行きます」
 私は笑顔を向け、彼の横に並んで歩き出した。

 すぐに、美也さんの姿が見えた。

「沖田建築様。すみません」
 美也さんが通帳を持って走って来た。


 私は美也さんから通帳を受け取ろうと手を伸ばしたが、彼が美也さんの手から通帳を奪い、私に通帳を差し出し頭を下げた。


「今度、僕とお話しして下さい!」

 やばい、定期預金の勧誘だ。
 さっき美也さんにも勧められたばかりだ…

 彼ノルマ厳しいのかな? 
 すごく必死な事が伝わってくる。

 でも、ごめんなさい。私、ボーナスで友達とグアム行く予定だから無理!


「あっ、はい。でも私、ボーナス予定があって、定期預金出来ないかもしれません」
 私ははっきり断った方がいいと思ったのだ。

 私は通帳を受け取ると、美也さんにお礼を言って車へと向かった。


 運転席に座りバックミラーを見ると、彼がまだ立っている姿が映った。

 銀行員ってノルマ大変なんだなぁと思いながら、私は社へと車を走らせた。
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