恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
 彼が私をじっと見ている視線が気になって、パスタを分ける手が震えた。


 しかし、彼は……

「マスター、ありがとう!」

 彼の大きな声に、周りの常連客が笑い出した。


「僕、あなたが戻って来るのを待っています」
 彼は力強い目で私を見た。


「えっ…… でも、それは……」

 私の中で何かが納得いかない。


「いいんですよ。マスターの言う通り、僕は明日も明後日も、一年先だってあなたを忘れる事は出来ない。だったら待っていた方が、僕は幸せです。でも、気にしないで下さい。あなたは留学を充実させて下さい。勿論、僕の事など考えなくていいですから。でも、もし帰国する時、僕の事思い出したら、連絡下さい。必ず迎えに行きます」


「…………」
 私は直ぐに返事が出来なかった。


「さあ、食べましょう!」
 彼はフォークを手にした。


 私は頭の中と心の整理を始めた。


 確かに私は彼に待っていて欲しいという気持ちがある。

 きっと彼は、全てを犠牲にしても私を待っていてくれるだろう。

 これは、私のけじめだ……


「それなら、平等にしませんか?」


「平等ですか?」
 彼は不思議そうに聞き返した。


「私が帰国する時、海原さんの事を今と同じ気持ちで思っていたら、帰国便をお伝えします。でも、もしその時、海原さんに他に好きな人が居たら、迎えには来ないで下さい。その時の私達の気持ちに任せましょう」


 彼にも、充実した時間を過ごして欲しいから……

 私は、もう一度彼に選んでもらえよう、もっと、もっといい女になって帰ってきたいから……


「わかりました。でも、平等では無いですね。あなたの気持ちが変わっても、僕の気持ちが変わる事はかなり低い確率ですから」


 彼には、まだ私の気持ちは伝わっていないようだ……

 でも、もう少し待って下さい。
 私に自信が持てるまで……


「そうですか? 海原さんが思っているよりは、平等だと思いますけど」

 私は意味ありげに彼を見たら笑い出してしまった。

 彼も笑った。
< 53 / 72 >

この作品をシェア

pagetop