恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
恋愛預金を落としました
 私はケアンズ国際空港へ降り立った。


 到着ロビーには、ホストファミリーが笑顔で出迎えてくれていた。
 三か月間ホームステイ先から語学学校に通い、その後、ワーキングホリディをする計画だ。

 ホームステイ先はケアンズ郊外にあり、海が見える落ち着いた場所だった。


 私は、オーストラリアでの携帯電話を手に入れると、直ぐ彼に無事に着いたメールを入れた。
 彼も、安心したと返信してくれた。


 憧れていた海外生活、何もかもが順調に行くと思っていた。


 だが、一週間後事態は変わっていた。

 英語が通じない! 
 学校の授業に付いていけない! 
 ステイ先の生活が合わない!

 私は一気にホームシックになってしまった。


 彼の声が聞きたい……  
 私は携帯電話を手にした。

 ふと顔を上げると、荷物の中の白いマフラーが目に入った。

 常夏のケアンズではいらない事を分かっていたが、心細くてつい持って来てしまったのだ。


 彼の声を聞いてしまったら、きっと日本に帰りたくなってしまう。
 そして、彼がすごく心配して、もしかしたら、オーストラリアに来てしまうかもしれない。


 私の勝手で決めた事だ……
 頑張らなきゃ…… 
 日本で彼が待っていてくれる……
 そう、やり遂げなくちゃ…… 

 もっと、もっといい女になって彼の前に立つんだから!


 私は握っていた携帯電話を置いた。

 そして、帰りの便を知らせるまでは、彼に連絡しない事を決めた。

 私はぎゅっと、白いマフラーを握りしめた。
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