恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
 私は、思い切って長野へ向かう事にした。

 喫茶店のマスターにお土産も渡したいし、美也さんにも会いたい。
 何しろ、連絡先が分からないのだから……


 喫茶店に入ると、マスターが変わらぬ笑顔で迎えてくれた。

 私はお土産のアボリジニのデザインされたワインホルダーを渡し、カウンターで無く、彼と英会話のレッスンをした奥の席に座った。
 

 マスターが何も言わず、トマトパスタを出してくれた……

 彼との、楽しかったレッスンを思い出す……

 そして、彼が私にプロポーズしてくれた場所だ……


 私は絶対に彼が迎えに来てくると思い込んでいたのだ。
 始めて、自分の思い上がりだと言う事に気付いた。


 パスタを食べ終わると、彼は私の前には現れないという現実が見えた。
 私は、このままここに居たら泣き出してしまいそうで、マスターに挨拶すると喫茶店を後にした。


 それでも、少しでも何か知りたいと銀行へ行ってみたが、美也さんは出産の為、銀行を辞めていた。
 神谷さんの姿も窓口には無かった。


 これは、私が彼の気持ちを自分の都合のいいよう利用した罰だと思った。

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