恋愛預金満期日 ~夏樹名義~

 私が思い切って東京へ向かったのは、帰国から二か月も経っていた。


 私は彼の勤める銀行の前まで来ていた。


 昼休みに入り、銀行の前の公園にはベンチで昼食をとる人達が多く、のどかな雰囲気が流れている。


 すると、思いも寄らず銀行の裏口から懐かしい顔が現れた。


 突然の事に涙が出そうだ……


 あれ? 彼は足を引きずっている。
 きっと、階段から落ちて捻挫でもしたのだろう?

 私は、彼のまさかの悲劇を予想すらしなかった。



 彼に声を掛けようか迷って動けずにいると、彼は公園のベンチに向かって行ってしまった。


 彼の向かった先には、女の人が手作りらしいお弁当を広げて待っていた。


 突然目に入った光景に私は気持ちが大きく沈んだ。

 あ―。やっぱり、来るんじゃ無かった……

 全てが終わった……



 私は公園の木の影から、噴水の先の親しげな二人の姿を見つめ、またもや現実を思い知った。

 いくらなんでも、「お久しぶりです」など笑って声をかける事も出来ない。



 私は彼の口から真実を聞く事が怖くて、黙ってその場から逃げるように離れてしまったのだ……

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