恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
 トイレの入り口で、ばったり鉢合わせたのが、銀行の窓口に座っている美也さんだった。

「美也さ―ん」


「あ―。雨宮さん」
 美也さんは、凄く驚いた顔をして私に両手を差し出してきた。


「美也さんも忘年会?」


「そ、そうなんだけど…  ど、どうしよう…」
 何故か美也さんは動揺しているみたいだ。

 え―。もしかして、私に会えてそんなに喜んでくれているの?  

 私も嬉しい―。


「美也さんに会えるなんて、嬉しいよ―」
 私は美也さんの手を取ってニッコリと笑顔を見せた。


「私も、凄く嬉しいんだけど… えっと… 私じゃない人が…」
 美也さんは、なんかもじもじしていてはっきりしない。

 あ、もしかして…


「あ―。ごめんなさい。トイレ急いでいるんですよね。お先にどうぞ。」
 私は慌てて手を離し、美也さんをトイレの個室へと押した。


「いやいや、そうじゃないんだけど……」


「手遅れになったら大変ですから」
 私は美也さんに手を振った。


 私がトイレをすませ、洗面台へ行くと美也さんが待っていた。


「雨宮さん、次は何時トイレに来る?」

 私はあまり聞かれない質問に一瞬頭の中で考えた……


「えっ 多分、行きたくなった時かな?」


「ああ、そうだよね。ごめん、ごめん」

 そういうと、美也さんは慌てて宴会の会場へ走って行ってしまった。


 私は首を傾げながら、洗面台の鏡に映る自分の髪の毛を手で整えた。


 宴会の会場の入口を入る際、チラッとだが融資の彼が凄い勢いでトイレに向かう姿が見えた。

 あの人も我慢していたのか? 

 銀行の窓口の人って、トイレ我慢する事多いんだ… 

 大変な仕事だと思い頭が下がった。
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