恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
 橋爪さんの横に戻り、ビールをぐぅ―と飲んだ。

「ああ、美味しい。なんか、トイレ楽しかった」

「えっ」
 橋爪さんは眉間に皺を寄せ怪訝な顔で私を見た。


「あのね… 銀行の窓口の人に会ったの。なんか、銀行の人ってトイレ我慢しているみたい」


「あらそう。銀行って言えば融資の海原さん知ってる?」


「ええ、時々手形の一覧頂きに行くので…」


「彼のご自宅と私の家が隣なのよ」


「ええ―。そうなんですか?」
 私の頭の中にさっき、トイレに向かって走って行った彼の姿が浮かんだ。


「海原さんのお母さんとは、仲良くして頂いているのよ」


「へえ―。そうなんですか。彼おいくつなんですか?」


「う―ん。多分、三十歳ちょっと過ぎじゃないかな? 結婚出来ないってお母さん毎日嘆いているから?」


「ああ、独身だったんですね」


「そうなのよ、それでこの間もお見合いの話がね…」


 橋爪さんのお得意の世間話が始まった。

 あまり興味の無い話が当分終わらないなぁと思い、チラっと山下課長の方を見た。

 課長は先月中途採用で入社してきた、上田美香の隣で何やら楽しそうに話をしていた。

 私は何だか胸の奥に嫌な影がぽつんと落ちた気がした…
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