恋する猫と魔法使い
アタシは彼を追いかけることができない。

だから、また喉を鳴らして『行かないで・・・』と声を上げた。

彼はこちらを振り返り困ったように笑って見せる。


「考える時間をくれないかな」


アタシは黙り込み彼の背中を見送った。

アタシの中で確信があったから。彼はまたここに来てくれる。アタシに会いに

だからアタシは彼がまた来るのを待つことにしたんだ。

たくさんの犬や猫たちは『お前は捨てられたんだ。彼に』とか言っていたけれどアタシは彼を待った。

保健所に犬や猫を見に来る人にも愛想を尽かせるようにしながら。

その時のアタシは彼しか見えていなかったんだ。

彼ならアタシを幸せにしてくれる。

彼の着ている服は普通より少し変だったけれど。夏なのに長袖の黒いコートを羽織っていてアタシが今まで見てきた人に比べたら変だった。

そんな印象もあるのかアタシは彼を忘れられなかったんだ。
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