エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 美佐子と大輔はそれから三時間後に帰宅して、屋敷はさらに慌ただしさを増した。

 家政婦たちを驚かせたのは、仮通夜は行わず、今夜が本通夜だという事だった。


 亡くなったのが、早朝とはいえ、著名人は弔問客が多いので、今夜は仮通夜と思ってまだ、あまりたいした準備をしていなかったのだ。

(美佐子さまに怒られる…)

 家政婦は一斉に黙り込んだが、この時ばかりは美佐子は寛大だった。

「今から準備しても充分間に合うわ。それに通夜も葬儀も斎場で行うのだから、この家では、万が一、こちらにお参りに見えたお客様への応対分だけの準備をすればいいのよ。」

「はい。かしこまりました。」

 家政婦はホッとした。

 中条家の一大行事に失敗は許されない。

 美佐子は更に、

「お通夜は今夜、19時からで、告別式は明日、12時からよ。電話などの問い合わせには間違えない様にね。もうそろそろ、ここにも葬儀社から準備に来るハズよ。」

 葬儀社のスタッフが来たのはそれから10分程たってからで、門柱には忌中灯が立てられた。

 源は日程を確認すると、とりあえず、準備の為に屋敷を後にした。
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