エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
「すいませんが、少しよろしいですか?」
美佐子は中条の葬儀一切を取り仕切る責任者の男を呼び付けた。
「はい。何でしょうか!?」
その男は葬儀社には不釣り合いな程の営業スマイルで答えた。
美佐子は目頭をハンカチで押さえながら、
「夫の遺体を納棺して下さったのは、アナタでしたよね?その節は大変お世話になりました。」
と、深々と頭を下げた。
「いいえ、だいぶん苦しまれたようで、この度は本当にご愁傷さまです。」
男はこれから美佐子が、言おうとしている事が分かると言わんばかりに先に核心を突いて来た。
「ハイ。実はその事なんですが、夫は気丈というか最後まで強い薬を使うのを嫌がって、自然に死にたいと抗癌剤や痛み止めのモルヒネを決して使わせなかったのです。それで臨終の際にも苦しんだそうで、あんな表情で亡くなったそうです。明け方の急変で誰も看取る者もいなかったのに、本当に申し訳ない事をした、楽に死なせてやれば良かったと今更ながら後悔しているのですが…。」
「ご事情は分かりました。私もこういう仕事をしておりますと色々なご遺体をお世話します…」
美佐子は中条の葬儀一切を取り仕切る責任者の男を呼び付けた。
「はい。何でしょうか!?」
その男は葬儀社には不釣り合いな程の営業スマイルで答えた。
美佐子は目頭をハンカチで押さえながら、
「夫の遺体を納棺して下さったのは、アナタでしたよね?その節は大変お世話になりました。」
と、深々と頭を下げた。
「いいえ、だいぶん苦しまれたようで、この度は本当にご愁傷さまです。」
男はこれから美佐子が、言おうとしている事が分かると言わんばかりに先に核心を突いて来た。
「ハイ。実はその事なんですが、夫は気丈というか最後まで強い薬を使うのを嫌がって、自然に死にたいと抗癌剤や痛み止めのモルヒネを決して使わせなかったのです。それで臨終の際にも苦しんだそうで、あんな表情で亡くなったそうです。明け方の急変で誰も看取る者もいなかったのに、本当に申し訳ない事をした、楽に死なせてやれば良かったと今更ながら後悔しているのですが…。」
「ご事情は分かりました。私もこういう仕事をしておりますと色々なご遺体をお世話します…」