エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
男は先を続けた。
「私たちは、ご遺体を前にして、手と手を合わせ合掌します。そして、清式は病院の方で済んで死に装束を着ておられるので、私たちは死化粧を施すのですが、まず、ご遺体の目や口が開いていると閉じさせます。亡くなられて間もなくですとだいたいそのまま閉じるのです。でも、どういう訳か、どうしても閉じなかったり、一旦は閉じていた目がしばらくしてまた開く事があるのです。」
美佐子はその男の話しを聞きながら、全身があわ立つのを感じていた。
直接ではないにせよ、命令を下して、中条を抹殺したのは自分だ!
放っておいても、あとわずかで亡くなる運命にあったか細い命の綱を断ち切ったのは自分だ。
そんな美佐子の心の内が分かる訳がないのだが、男はこう言った。
「しかし、ご遺族は目が閉じないと、不安がられて私どもに相談されます。『どうにかして目を閉じれませんか』と。そして、私たちは奥の手を使うんですが…。」
と最後の所で言い渋った。
美佐子はワラにも縋る思いで
「一体、どうするんですか?」
と聞いた。
「私たちは、ご遺体を前にして、手と手を合わせ合掌します。そして、清式は病院の方で済んで死に装束を着ておられるので、私たちは死化粧を施すのですが、まず、ご遺体の目や口が開いていると閉じさせます。亡くなられて間もなくですとだいたいそのまま閉じるのです。でも、どういう訳か、どうしても閉じなかったり、一旦は閉じていた目がしばらくしてまた開く事があるのです。」
美佐子はその男の話しを聞きながら、全身があわ立つのを感じていた。
直接ではないにせよ、命令を下して、中条を抹殺したのは自分だ!
放っておいても、あとわずかで亡くなる運命にあったか細い命の綱を断ち切ったのは自分だ。
そんな美佐子の心の内が分かる訳がないのだが、男はこう言った。
「しかし、ご遺族は目が閉じないと、不安がられて私どもに相談されます。『どうにかして目を閉じれませんか』と。そして、私たちは奥の手を使うんですが…。」
と最後の所で言い渋った。
美佐子はワラにも縋る思いで
「一体、どうするんですか?」
と聞いた。