エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
「この方法はイヤがられる場合もありますが、瞬間接着剤で目蓋をくっつけるしか方法はありません。」

と、男は急に人が変わったようにサラっと言ってのけた。

 美佐子が言葉を無くして黙り込んでいると、

 男は、

「まあ、火葬されるのだと思えば割り切って、そのようにされる場合がほとんどですよ。でもまだお通夜まで時間がありますので、少しお考えになられても…。」

と言い、忙しいと言わんばかりに立ち去ろうとしたが、美佐子は、

「いえ、その方法しかないのなら、そうして下さい。でも、出来るだけたくさんの花で囲んでやって下さい。」

と、その男に頼む事にして

「あまり目立たないようにね。」

と、壱万円札を握らせた。

「はい。かしこまりました。」

と、男の頬が緩んだ気がした。

「こういう事もビジネスなのね。」

と、美佐子は立ち去る男の後ろ姿をみながら呟いた。
< 137 / 201 >

この作品をシェア

pagetop