エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 黒沢が屋敷に戻ると、別段、変わった様子はないようなので安心した。

 すると、美佐子からの電話がかかってきた。

 美佐子は

「テレビ局はまだいるの?と聞いてきた。」

「ハイ。います。」

 黒沢が言うと、

「それじゃあ、テレビ局の車がこっちに向かったのを確認して、アナタもこっちに来てちょうだい。」

「えっ?俺がそっちに行ったらココは誰が見るんです?」

「そうね〜屋敷内は里子と後2人ぐらいでいいわ。ブローカーはプロよ。ヘタに素人が手を貸すよりまかせた方がうまくいくものよ。」

 黒沢は納得いかずに黙っていると、

「アナタには手を汚して欲しくないの。そして式には私の秘書として参列してもらうんだから、その方が大事な役目よ。」

と美佐子が言った。

「分かりました。」

 一応はそう言ってみたものの、もう手は汚れてしまっている。

 昨日、足げにした部下。

 そして、たった今、細工して放置して来た源。

(もう、今更綺麗にはなれないんだ…)

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