エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

　三人は一瞬、ハッとした。

　すると、

「勇！早く逃げなさい！逃げるのよ！」

　その声は大きく太く、とてもあの弥生が発しているものとは思えないぐらいに力強かった。

　火菜と源はベランダの窓から外を見た。

　すると、玄関に横付けされた装甲車を思わせる真っ黒いワゴン車の中から４人の男たちが降り立つ所だった。

　いかにも、プロのような集団には、まともにぶつかっても勝ち目はない。

「よし！ここから抜け出すぞ。」

と源が言ったと同時に部屋のドアが開いた。

　すると、そこから勇が飛び出して行ったので、黒沢の部下は勇を追った。

　仕方ないので、源と火菜はベランダ側から脱出した。

　逃げながら源は、

「遅かった。時間が後１０分あれば逃げられたのに…」

と悔やんでいた。

　火菜は飛び出した勇の事が気になっていたが、今は無我夢中で逃げるしかなかった。

　火菜は源について屋敷の外に出ると、初めてのアスファルトを、初めて見る景色を軽く受け流しながら駆け抜けた。

　二人は外に出ても、

　走る！

　　走る！！

　　　走る！！！

　だだひたすら駆け抜けた。