エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 こうして生まれたのが『火菜』だ。

 名前は望が、戦火(今の現状)の中でも、花を咲かせて欲しい。

 との願いが込められた命名だったが、またしても、戸籍には載せられない、世間から隔離された生活が、火菜に義務づけられた。

 それでも、望は火菜を母乳で育て慈しんでいたが、望には帰りを待ちわびている二人の子供もいる。

(早く帰りたい。)

 しかし、そう願う望の意志に反して、今度はなかなか妊娠しない。

 すると望は

(このまま家に帰れないのでは…。)

(もう、妊娠しないんじゃないかしら。)

と、焦りと不安が入り乱れ気持ちが落ち着かなくなって来た。

 この屋敷の中に、それを相談出来る人もいなければ、楽しい事は何もない上に、幼い火菜には手がかかる。

 次第に望は、火菜に八つ当りをするようになっていた。
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