エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
「私はもうこのうちを出て、本当のうちに帰るの。前に話したよね!火菜にはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるって。」

「うん。」

「そのお姉ちゃんが病気なのも知ってるね!」

「うん。」

「だから私は帰らなきゃならないけど、火菜たちは連れて行けないの。」

 その時はまだ、自分たちの置かれている状況が普通ではない事も、火菜にはよくわからなかったし、

ただ、母がいなくなるのだという事は、直感で分かって悲しい気持ちになった。

 でも、それをグッと堪えて、火菜は返事した。

「分かった。勇がいるからだいじょうぶだよ。」

 健気な火菜に、望の方が泣きそうになったが、

(どうせココから連れ出せないのは分かっている。それなら優しくするのは、却って思いが残って可愛そうだ。)

 そう望は考えていた。そして、

「これだけは言っておくね。」

 望はしっかと火菜の肩を掴んで言った。
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