エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

　望は電話を切ると、ソファーに腰掛けしばし放心状態になった。

　たった今、電話で話した事があまりにも現実離れしていて、思考回路がショートしているのだ。

　でも、あの屋敷の中で起きる事と思えば納得出来る。

あの屋敷は治外法権が通用するぐらい世間から遮断されているのだ。

それは、あの屋敷で９年も暮らしていた自分だから分かる事だけど。

　でも、私は抜け出せた。

　そして家族は、何事もなかったかのように私を受け入れてくれ、平和な今日がある。

　それには、私の留守中、ママは外国で働いている。だから偉いんだ！と子供たちを子育てした父親の力が大きい。

　９年前、ある日フラっと舞い戻った私を、買い物に行っていて帰ってきたかのように、

「おかえり。」

と明るく迎え入れ、そして以前と変わりなく愛してくれる度量の太さに、私は再び『夫への愛』を確信した。