エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 望が、漠然と弘輔の心配をしていた時、車の中で弘輔はまさに『蛇に睨まれた蛙』のように縮みあがっていた。

 モチロン蛇は美佐子で、先程の『おばちゃん』の事を問い詰められていた。

「そう!弘輔が本当の事を言わなければ、あの暗い部屋に閉じ込めるだけよ。ママは別にかまわないわ。」

と弘輔を追い詰めていた。

 すると、今までだんまりを続けていた弘輔が、嗚咽しながら関を切ったように話し始めた。

「おばちゃんって、うちにいる頭のおかしな人だよ。パパに言ったら可愛そうだから、誰にも言ったらいけないって、男と男の約束だって…」

 やっとでそこまで言うとワーッと泣きだした。

「男と男の約束ね〜」

 無表情のまま美佐子は

「フフッ」

と鼻で笑うとケータイを取出し、短縮ボタンの『1』を押した。
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