エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》

前夜祭

　屋敷にはなんなく戻った弥生だったが、

（病院を出る時、「おばさん？」と微かに呼ばれた気がしてドキッとしたが、あれは気のせいだったのかしら…怖くて振り返らずタクシーに乗り込んだけど‥）


　急いで、着替えを済ませベットに横たわると、誰かが階段を駆け上がって来る気配を感じた。

　弥生はとりあえず脱いだ洋服などを掻き集め、布団をかぶるとドアが開いた。

　ツツーッとベットに近付き弥生を覗きこんだのは、家政婦の里子だった。

　特に、何も言わずに部屋の中を見渡して出ていったが、弥生はひどく不安にかられていた。

（　この、望さんから聞いた住所の紙も何かに入れてペンダントと一緒に隠さなくては…）

　そう思うと、あまりない私物から探しだす事にした。