エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 その頃、弘輔は一旦は乾いた涙がまた溢れだしていた。

 先程の美佐子の怒りが、あまりにも凄まじかったので、怖かったのだ。

 それは、弘輔に向けられたものではなかったけれど、ウソをついた弘輔を美佐子は冷めた目で見つめていた。

 (怖い。)

 そう思うといても立ってもいられなくなり、火菜の部屋をおとずれていた。

 火菜と弘輔は実の姉弟だ。

 勿論、弘輔はその事を知らないが、火菜には懐いていた。

 火菜はやっとで泣き止んだ弘輔に、

「何があったか、お姉ちゃんに話してごらん。」

と優しく言った。

 弘輔は、コクンと頷くと、今日、病院であった出来事から話し始めた。

「うん。僕、病院で見たんだよ…」

 弘輔には、まだその事がいかに大事な事で、そして火菜たちを追い詰めたかは理解出来ない。

 私だって今かなりの衝撃を受けている。

 勇の母親の弥生さんが、まともだったなんて!

 そして、中条を見舞う事に何の意味があるのか!

 しかも、美佐子がそれを知り、激怒している。

 火菜は言い様のない不安に駆られたが、今はもうすぐ離れ離れになって、二度とあえなくなるであろう弟。
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