H ~ache~
「…早瀬さん」
「なんだ」
今日は高級クラブの会計チェック。
環が店に入るなり、オーナー室で仕事をするように言われて不思議に思っていると、この店の持ち主がやってきた。
どうやら早瀬は環のスケジュールを把握しているらしい。
「先日はごちそうさまでした」
環が料亭での食事の礼を言うと、早瀬は大した事でもなさげに頷き、環の仕事を見ていた。
「今日は何時に終わる?」
「…22時くらいですかね…明日は移動するので早めに終わらせないと」
最後の方は呟くように言いながら、書類を広げた。
「出張か?」
「はい、札幌に…」
資料を種類毎に並べると、おろしていた髪を纏めて結い上げ、かけていた眼鏡を外した。
早瀬に言われたからではなく、やはり仕事に集中したいときは眼鏡が邪魔に感じての行動だった。
「明日から何日行く?」
「2泊3日で…すすきののお店も早瀬さんのお店でしたよね?凄いですよね、高級クラブを何件も……」
次第に無口になり仕事へ没頭していく環を、早瀬は愉快そうに見ていた。
「…傷になるぞ?」
ふいに下唇を親指でなぞられ、視線をあげると早瀬と目があった。
「噛むな」
もう一度唇を撫でると手を離した。
(いつの間にか噛んでいたんだ…)
「…早瀬さんはお忙しいんじゃないんですか?」
会長職にある人が末端の仕事を眺めていていいのだろうか?環は疑問を口にした。
「邪魔か?」
「いえ、そういう意味ではないです。…飽きないのかと思ったんです」
自分が仕事をしているのを見ているだけの早瀬。
その表情からは何を考えているのか分からないが、つまらなくないかと不思議に思う。
「飽きないな」
「そうですか…それならいいんです」
環は視線を書類に戻し、自分を意識していない様子の彼女を見て早瀬は苦笑した。
「経理の人間は間違を指摘する煩い連中だと思っていたがおまえは違うようだ」
(経理のイメージってそんなもの?)
「口うるさくチェックをしてみますか?」
経営者がそれを望むならそうするだけだと環は顔を上げて早瀬を見た。
「やめてくれ…煩い女は好きじゃない」
「それでは今まで通りで…」
環は再び意識を早瀬から書類へ戻すと仕事に没頭した。
環が仕事を終えると早瀬はマンションまで送った。
車を降りるときに気を付けて行ってこい、と言われて手を握られたままキスをした。
何故自分にキスをするのか聞けないまま…
環の手を握る暖かくて大きな手を握り返したのは条件反射ではなかった。
(不思議な人…)
「なんだ」
今日は高級クラブの会計チェック。
環が店に入るなり、オーナー室で仕事をするように言われて不思議に思っていると、この店の持ち主がやってきた。
どうやら早瀬は環のスケジュールを把握しているらしい。
「先日はごちそうさまでした」
環が料亭での食事の礼を言うと、早瀬は大した事でもなさげに頷き、環の仕事を見ていた。
「今日は何時に終わる?」
「…22時くらいですかね…明日は移動するので早めに終わらせないと」
最後の方は呟くように言いながら、書類を広げた。
「出張か?」
「はい、札幌に…」
資料を種類毎に並べると、おろしていた髪を纏めて結い上げ、かけていた眼鏡を外した。
早瀬に言われたからではなく、やはり仕事に集中したいときは眼鏡が邪魔に感じての行動だった。
「明日から何日行く?」
「2泊3日で…すすきののお店も早瀬さんのお店でしたよね?凄いですよね、高級クラブを何件も……」
次第に無口になり仕事へ没頭していく環を、早瀬は愉快そうに見ていた。
「…傷になるぞ?」
ふいに下唇を親指でなぞられ、視線をあげると早瀬と目があった。
「噛むな」
もう一度唇を撫でると手を離した。
(いつの間にか噛んでいたんだ…)
「…早瀬さんはお忙しいんじゃないんですか?」
会長職にある人が末端の仕事を眺めていていいのだろうか?環は疑問を口にした。
「邪魔か?」
「いえ、そういう意味ではないです。…飽きないのかと思ったんです」
自分が仕事をしているのを見ているだけの早瀬。
その表情からは何を考えているのか分からないが、つまらなくないかと不思議に思う。
「飽きないな」
「そうですか…それならいいんです」
環は視線を書類に戻し、自分を意識していない様子の彼女を見て早瀬は苦笑した。
「経理の人間は間違を指摘する煩い連中だと思っていたがおまえは違うようだ」
(経理のイメージってそんなもの?)
「口うるさくチェックをしてみますか?」
経営者がそれを望むならそうするだけだと環は顔を上げて早瀬を見た。
「やめてくれ…煩い女は好きじゃない」
「それでは今まで通りで…」
環は再び意識を早瀬から書類へ戻すと仕事に没頭した。
環が仕事を終えると早瀬はマンションまで送った。
車を降りるときに気を付けて行ってこい、と言われて手を握られたままキスをした。
何故自分にキスをするのか聞けないまま…
環の手を握る暖かくて大きな手を握り返したのは条件反射ではなかった。
(不思議な人…)