H ~ache~
「タマちゃーん、大丈夫?」
「はい…」
「昨日、良く飛行機が飛んだわね」
飛行機という単語に、夜中の事を思い出して、カッと頬が熱くなるのが分かった。
「ハハ…」
力なく笑い、笑うと違和感が残る下腹部に響いた。
(恥ずかしい…)
「タマちゃん、眼鏡は?」
「飛行機の中に忘れてきたかもしれません…」
嘘をついた。
早瀬の車に置いてきてしまった。
いたたまれない気持ちになり、早瀬の部屋を出て来てしまったが、次に会ったらどんな顔をすればいいのだろうか…
(次に会うことすら、無いかもしれないけど…)
「法務部にいってきます」
「行ってらっしゃい」
打合せをするために法務部へ向かった環は、この打合せが終わったら定時で帰ると心に決めた。
(眠くてどうにかなりそう…)
殆ど寝ていないので眠くて仕方ない。ついでに言えば、身体のあちこちが痛い。
早瀬の家で汚してしまったバスタオルも洗いたい。
とにかく今日は帰ると決めた。
「ただいま…」
誰もいない部屋に帰り、すぐに風呂に入った。
「痛い…」
抱かれるということがあんなに大変だとは思わなかった。
昨日の早瀬との事を思い出してしまい、フルフルと首を横にふった。
(どうして早瀬さんは私を…)
朝から何回も、何故こうなったのだろうかと考えた。
今までも何故か早瀬は自分の仕事先に現れた。そして車で送りキスをした。
その度に何故かと考えていたが、気紛れなのだろうと思うように努めた。
権力と金と容姿を持っている人が私のような平凡な女を好きになるとか考えられない。
毛色の違う女が珍しい。それだけだろう…
「悩むのやめた」
アッサリと考える事を放棄した環は洗濯を済ませると、子供でも寝ないような早い時間にベッドに入り眠った。
「資料をお預かりします」
「よろしくお願いします。…及川さん、眼鏡はやめたんですか?」
(またこの質問…)
「無くしてしまって…」
社内でも同じような事を言われ続け、客からも言われて少々うんざりしていた。
早く眼鏡を買いに行こうと決めた。
「及川さん、どうぞ」
コーヒーを出され、頭を下げるとマネージャーは立ち去らずにじっと見ていた。
「…?」
「失礼…ここのところ立て続けにオーナーがいらっしゃっていると聞いていましたので」
あぁ、と環は頷くと、マネージャーは探るように環を見ていた。
「私がきちんと仕事をしているか監視されていたのではないでしょうか…」
自分で言いながら情けない気持ちになった。
「そうでしたか…オーナーは気紛れな方だと聞きますから及川さんも大変でしたね」
「…気紛れな方なんですか?」
ズキリと胸が痛んだ事を表に出さないようにと努めると笑顔になってしまった。
それからマネージャーから早瀬の話を色々と聞かされた。
早瀬の店の女は彼に気に入られようとオーナーが来店すると競いあう。とか特定の恋人はつくらない…
など、聞いていて胸が痛くなるような話ばかりだった。
「女性にモテるのも大変ですね」
ようやくでた言葉がそれだった。
きっと自分を抱いたのは気紛れだろう。そう思っていたが、周囲から聞かされると自分で考えていた以上に辛かった。
「お仕事の邪魔をしてしまいましたね…すみません」
「いえ、コーヒーをごちそうさまでした」
その日は何故か仕事が思うよう捗らず、家に仕事を持ち帰るハメになってしまった。
「私って馬鹿…」
分かりきっていたことを第三者から聞かされて勝手に落ち込んでいるなんて…
迎えに来る早瀬に流されてキスをしていた自分自身にも腹が立つ。
(身の程知らずの事をするから…)
仕事用のスマホをチラリと見て電源を落とした。
「はい…」
「昨日、良く飛行機が飛んだわね」
飛行機という単語に、夜中の事を思い出して、カッと頬が熱くなるのが分かった。
「ハハ…」
力なく笑い、笑うと違和感が残る下腹部に響いた。
(恥ずかしい…)
「タマちゃん、眼鏡は?」
「飛行機の中に忘れてきたかもしれません…」
嘘をついた。
早瀬の車に置いてきてしまった。
いたたまれない気持ちになり、早瀬の部屋を出て来てしまったが、次に会ったらどんな顔をすればいいのだろうか…
(次に会うことすら、無いかもしれないけど…)
「法務部にいってきます」
「行ってらっしゃい」
打合せをするために法務部へ向かった環は、この打合せが終わったら定時で帰ると心に決めた。
(眠くてどうにかなりそう…)
殆ど寝ていないので眠くて仕方ない。ついでに言えば、身体のあちこちが痛い。
早瀬の家で汚してしまったバスタオルも洗いたい。
とにかく今日は帰ると決めた。
「ただいま…」
誰もいない部屋に帰り、すぐに風呂に入った。
「痛い…」
抱かれるということがあんなに大変だとは思わなかった。
昨日の早瀬との事を思い出してしまい、フルフルと首を横にふった。
(どうして早瀬さんは私を…)
朝から何回も、何故こうなったのだろうかと考えた。
今までも何故か早瀬は自分の仕事先に現れた。そして車で送りキスをした。
その度に何故かと考えていたが、気紛れなのだろうと思うように努めた。
権力と金と容姿を持っている人が私のような平凡な女を好きになるとか考えられない。
毛色の違う女が珍しい。それだけだろう…
「悩むのやめた」
アッサリと考える事を放棄した環は洗濯を済ませると、子供でも寝ないような早い時間にベッドに入り眠った。
「資料をお預かりします」
「よろしくお願いします。…及川さん、眼鏡はやめたんですか?」
(またこの質問…)
「無くしてしまって…」
社内でも同じような事を言われ続け、客からも言われて少々うんざりしていた。
早く眼鏡を買いに行こうと決めた。
「及川さん、どうぞ」
コーヒーを出され、頭を下げるとマネージャーは立ち去らずにじっと見ていた。
「…?」
「失礼…ここのところ立て続けにオーナーがいらっしゃっていると聞いていましたので」
あぁ、と環は頷くと、マネージャーは探るように環を見ていた。
「私がきちんと仕事をしているか監視されていたのではないでしょうか…」
自分で言いながら情けない気持ちになった。
「そうでしたか…オーナーは気紛れな方だと聞きますから及川さんも大変でしたね」
「…気紛れな方なんですか?」
ズキリと胸が痛んだ事を表に出さないようにと努めると笑顔になってしまった。
それからマネージャーから早瀬の話を色々と聞かされた。
早瀬の店の女は彼に気に入られようとオーナーが来店すると競いあう。とか特定の恋人はつくらない…
など、聞いていて胸が痛くなるような話ばかりだった。
「女性にモテるのも大変ですね」
ようやくでた言葉がそれだった。
きっと自分を抱いたのは気紛れだろう。そう思っていたが、周囲から聞かされると自分で考えていた以上に辛かった。
「お仕事の邪魔をしてしまいましたね…すみません」
「いえ、コーヒーをごちそうさまでした」
その日は何故か仕事が思うよう捗らず、家に仕事を持ち帰るハメになってしまった。
「私って馬鹿…」
分かりきっていたことを第三者から聞かされて勝手に落ち込んでいるなんて…
迎えに来る早瀬に流されてキスをしていた自分自身にも腹が立つ。
(身の程知らずの事をするから…)
仕事用のスマホをチラリと見て電源を落とした。