H ~ache~
環は早くパーティーが終わってくれないかとジリジリとした気持ちで時間が経つのを待っていた。
「顔色が悪い。控え室で休みなさい」
父に声をかけられた環は、大丈夫だと言ったが逆に叱られた。
招待客から勧められた酒を断れずに飲んだが、昼から忙しくてまともな食事をしていなかった為に酔いが回り気分が悪くなってきていた。
「環、ここに来るために無理をしたんだろう?いいから休みなさい。今秘書に案内させる…」
父に諭され、渋々ルームキーを受け取ると環はパーティー会場を出た。
「…」
(酔った…頭がフワフワする)
ふらつく足でエレベーターに乗ると先客がいた。
軽く会釈をして自分もエレベーターに乗り、ルームキーに書いてある部屋番号を見て行先のフロアパネルを押そうとして戸惑った。
(…これって何階?)
「分からないでキーを受け取ったのか?」
背後から声をかけられ、環は振り返ろうとしたが足がよろけた。
「っ…すみません…」
よろけたところを支えられ、環は男の胸に手をついて謝った。
「そのルームキーはスイートルームのものだ」
男がフロアパネルを押し、環を見下ろした。
「そう、ですか…」
(スイートに部屋をとっていたの…面会でもあったのね…)
さして疑問にも思わずフロアパネルが光るフロア数を見ていた。
「…知らないでその鍵を受け取ったのか?」
「私は…泊まるわけではないので…」
言い訳をする必要もないが、酔った環は咎めるように聞く男に事情を話していた。
(休ませてもらうだけ…でも、面会の予定があるなら邪魔にならないようにしなければ)
環は、部屋には行かずに帰ろうと決めた。
一階のパネルを押すために自分を支えている男から離れようとしたが、叶わなかった。
「まだふらついているぞ、危なっかしい女だな…」
「すみません、離し…」
環は何が起こったのか一瞬、理解できなかった。
どうして睫毛が触れそうな程に男の顔が近くにあるのか分からずに、動けずにいた。
「…っ」
男の腕が自分の背中に回されて強く抱き締められているのは何故なのか…
どうして自分はこの男とキスをしているのか…
離れ難いと思ってしまうのは…なぜ?
うっとりと目を閉じようとした時、エレベーターが止まる音がして、環は我に返った。
「!」
男の胸を強く押し、男から離れるとエレベーターの扉が開いた。
「探しましたよ!」
父の側近が環を呼び、環は足を踏み出しエレベーターを降りた。
「どうしました?」
様子がおかしい環を心配した側近が環の腕を取ると、環は後ろを振り返った。
エレベーターの扉は閉まっており、つい先程までキスをしていた男はいなかった。
「環さん?」
「すみません、帰ります」
「お父様から具合が良くないと聞きました。休んで下さい」
「いえ、帰ります…帰ったと父に伝えて下さい」
踵を返してエレベーターのパネルを押し、環はロビーへと降りた。
一人暮らしの部屋に帰りついた環は、洋服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びた。
熱い湯を頭から浴びながら床にしゃがみこみ、先程の出来事を思い出して頭を抱えた。
(酔っていたとはいえ、知らない男とキスをするなんて…)
全く知らない、顔すら良く見ていなかった男にキスをされ、拒むどころか受け入れていた事が信じられなかった。
「私のバカ…」
翌朝、心配した父親から連絡が入り、仕事が入っていたことを思い出して帰ったと苦しい嘘をついた。
風呂に入り、やっとまともな思考ができるようになった環は、昼の光が射し込む部屋で高層ビル群を眺めながら昨夜の事は忘れようと決めた。
(私がスイートルームを使うなんてあり得ないし…もしまた会ったとしても、私には彼が分からない)
「顔色が悪い。控え室で休みなさい」
父に声をかけられた環は、大丈夫だと言ったが逆に叱られた。
招待客から勧められた酒を断れずに飲んだが、昼から忙しくてまともな食事をしていなかった為に酔いが回り気分が悪くなってきていた。
「環、ここに来るために無理をしたんだろう?いいから休みなさい。今秘書に案内させる…」
父に諭され、渋々ルームキーを受け取ると環はパーティー会場を出た。
「…」
(酔った…頭がフワフワする)
ふらつく足でエレベーターに乗ると先客がいた。
軽く会釈をして自分もエレベーターに乗り、ルームキーに書いてある部屋番号を見て行先のフロアパネルを押そうとして戸惑った。
(…これって何階?)
「分からないでキーを受け取ったのか?」
背後から声をかけられ、環は振り返ろうとしたが足がよろけた。
「っ…すみません…」
よろけたところを支えられ、環は男の胸に手をついて謝った。
「そのルームキーはスイートルームのものだ」
男がフロアパネルを押し、環を見下ろした。
「そう、ですか…」
(スイートに部屋をとっていたの…面会でもあったのね…)
さして疑問にも思わずフロアパネルが光るフロア数を見ていた。
「…知らないでその鍵を受け取ったのか?」
「私は…泊まるわけではないので…」
言い訳をする必要もないが、酔った環は咎めるように聞く男に事情を話していた。
(休ませてもらうだけ…でも、面会の予定があるなら邪魔にならないようにしなければ)
環は、部屋には行かずに帰ろうと決めた。
一階のパネルを押すために自分を支えている男から離れようとしたが、叶わなかった。
「まだふらついているぞ、危なっかしい女だな…」
「すみません、離し…」
環は何が起こったのか一瞬、理解できなかった。
どうして睫毛が触れそうな程に男の顔が近くにあるのか分からずに、動けずにいた。
「…っ」
男の腕が自分の背中に回されて強く抱き締められているのは何故なのか…
どうして自分はこの男とキスをしているのか…
離れ難いと思ってしまうのは…なぜ?
うっとりと目を閉じようとした時、エレベーターが止まる音がして、環は我に返った。
「!」
男の胸を強く押し、男から離れるとエレベーターの扉が開いた。
「探しましたよ!」
父の側近が環を呼び、環は足を踏み出しエレベーターを降りた。
「どうしました?」
様子がおかしい環を心配した側近が環の腕を取ると、環は後ろを振り返った。
エレベーターの扉は閉まっており、つい先程までキスをしていた男はいなかった。
「環さん?」
「すみません、帰ります」
「お父様から具合が良くないと聞きました。休んで下さい」
「いえ、帰ります…帰ったと父に伝えて下さい」
踵を返してエレベーターのパネルを押し、環はロビーへと降りた。
一人暮らしの部屋に帰りついた環は、洋服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びた。
熱い湯を頭から浴びながら床にしゃがみこみ、先程の出来事を思い出して頭を抱えた。
(酔っていたとはいえ、知らない男とキスをするなんて…)
全く知らない、顔すら良く見ていなかった男にキスをされ、拒むどころか受け入れていた事が信じられなかった。
「私のバカ…」
翌朝、心配した父親から連絡が入り、仕事が入っていたことを思い出して帰ったと苦しい嘘をついた。
風呂に入り、やっとまともな思考ができるようになった環は、昼の光が射し込む部屋で高層ビル群を眺めながら昨夜の事は忘れようと決めた。
(私がスイートルームを使うなんてあり得ないし…もしまた会ったとしても、私には彼が分からない)