H ~ache~
余映
札幌から帰って10日程が過ぎ、環は早瀬の事をあまり思い出さなくなった。
あれから顔を会わせることもなく、連絡も無い。
早瀬との事は終わった事と自分に言い聞かせ、仕事に没頭するように努めた。
その日は京都へ出張に行った帰り、新幹線に乗り遅れそうになった環は、京都駅の中を急いで移動していた。
そこへ会社のスマートフォンに着信があり、焦りながら通話をタップしようとしたが間に合わずに切れてしまった。
(ごめんなさい!後でかけ直します!)
なんとか新幹線にすべりこみ席についたとき、アシスタントから連絡が入った。
「はい」
『環さん、今大丈夫ですか?』
「大丈夫…何かありました?」
乱れる息を整えながらアシスタントに聞くと、心配そうな問いかけが返ってきた。
『息が切れてますよ、大丈夫ですか?』
「ごめんなさい、やっぱり少し落ち着いたら折り返してもいいかしら?」
『はーい、お電話待ってます』
アシスタントの底抜けに明るい声に苦笑しながら、一度通話を終わらせた。
落ち着いた環がアシスタントに連絡をすると、環が担当しているクライアントが急ぎで環に相談したいことがあると言っているらしかった。
出張中だと言っても、すぐに来て欲しいと言っているらしく、アシスタントも困り果てて連絡をしてきたそうだ。
「分かりました。これから連絡をとってみます。ありがとう」
環は新横浜の駅で途中下車し、クライアントの元へ急いだ。
「災難だったわね」
次の日、外出先で先輩社員と昼食を食べていると、よしよしと頭を撫でられた。
紗和と那奈と環。
この3人は仲が良く、一緒に食事をすることが多い。
「それで?」
「身内の喧嘩が大きくなりすぎてしまったみたいです。来週法務部の弁護士と訪問することで落ち着きました」
昨日の出張帰りの急な呼び出しは、興奮した社長婦人からの呼び出しだった。
会社の跡取りの妻との折り合いが悪く、株を渡さないと言い出し大騒ぎになっていた。
なんとか婦人を宥めたが、弁護士に相談すると言ってきかないために来週弁護士と同行すると約束してその日はやっと解放された。
「タマちゃん、眼鏡をかけない方がいいわよ」
唐突に紗和が言い出し、那奈も頷いた。
新しく買った眼鏡をかけていた環は、眼鏡を胸ポケットにしまった。
「そうよ、綺麗な顔を隠すことないわ」
「んー…」
「誰になんと言われても堂々としていればいいのよ」
「そうよ、タマちゃんはタマちゃん」
「ありがとうございます」
目立ちたくない。
その思いが強く、眼鏡をかけていたが、この二人の前では眼鏡を外そうかと思う環だった。
あれから顔を会わせることもなく、連絡も無い。
早瀬との事は終わった事と自分に言い聞かせ、仕事に没頭するように努めた。
その日は京都へ出張に行った帰り、新幹線に乗り遅れそうになった環は、京都駅の中を急いで移動していた。
そこへ会社のスマートフォンに着信があり、焦りながら通話をタップしようとしたが間に合わずに切れてしまった。
(ごめんなさい!後でかけ直します!)
なんとか新幹線にすべりこみ席についたとき、アシスタントから連絡が入った。
「はい」
『環さん、今大丈夫ですか?』
「大丈夫…何かありました?」
乱れる息を整えながらアシスタントに聞くと、心配そうな問いかけが返ってきた。
『息が切れてますよ、大丈夫ですか?』
「ごめんなさい、やっぱり少し落ち着いたら折り返してもいいかしら?」
『はーい、お電話待ってます』
アシスタントの底抜けに明るい声に苦笑しながら、一度通話を終わらせた。
落ち着いた環がアシスタントに連絡をすると、環が担当しているクライアントが急ぎで環に相談したいことがあると言っているらしかった。
出張中だと言っても、すぐに来て欲しいと言っているらしく、アシスタントも困り果てて連絡をしてきたそうだ。
「分かりました。これから連絡をとってみます。ありがとう」
環は新横浜の駅で途中下車し、クライアントの元へ急いだ。
「災難だったわね」
次の日、外出先で先輩社員と昼食を食べていると、よしよしと頭を撫でられた。
紗和と那奈と環。
この3人は仲が良く、一緒に食事をすることが多い。
「それで?」
「身内の喧嘩が大きくなりすぎてしまったみたいです。来週法務部の弁護士と訪問することで落ち着きました」
昨日の出張帰りの急な呼び出しは、興奮した社長婦人からの呼び出しだった。
会社の跡取りの妻との折り合いが悪く、株を渡さないと言い出し大騒ぎになっていた。
なんとか婦人を宥めたが、弁護士に相談すると言ってきかないために来週弁護士と同行すると約束してその日はやっと解放された。
「タマちゃん、眼鏡をかけない方がいいわよ」
唐突に紗和が言い出し、那奈も頷いた。
新しく買った眼鏡をかけていた環は、眼鏡を胸ポケットにしまった。
「そうよ、綺麗な顔を隠すことないわ」
「んー…」
「誰になんと言われても堂々としていればいいのよ」
「そうよ、タマちゃんはタマちゃん」
「ありがとうございます」
目立ちたくない。
その思いが強く、眼鏡をかけていたが、この二人の前では眼鏡を外そうかと思う環だった。