H ~ache~
翌日、環が外出先から戻ると、法務部の課長と財務部の課長である高梁が打合せをしていた。

「及川!ちょっといいか」

呼び止められ、法務部の課長に挨拶をすると高梁は突然切り出した。

「買収した会社があるんだが、状況が分からないんだ。ちょっと行ってきてくれ」

「…?」

「いいから行ってきてくれ。会長が買収した会社だからな。間違うなよ!」

唐突に言われ、良くわからなかったが、要するに買収した会社の正しい財務状況を資料にしてこいと言いたいのだろう…

「及川さん、急に申し訳ない。頼めるかな」

物腰が柔らかい法務部の課長が言い、環は微笑んだ。

「はい」

「そうか、早速明日から九州に飛んでくれ」

「九州!?」

(それを早く言って欲しいです!)

高梁は仕事の出来る環を疎ましく思っていた。
今回の仕事が法務部から持ちかけられたときに真っ先に環に任せようと決めた。



「タマちゃん一人で行くの!?」

環が自分のデスクで出張に行く準備をしていると、何処からか話を聞いてきたらしい那奈が心配そうに声をかけた。

「…法務部の人も手伝いに来てくれるそうです」

「ハゲなしのヤツ!タマちゃんが困ればといいと思って意地悪ばっかり…」

那奈が悔しそうに言い、環は予定が入っていたクライアントへ予定変更の連絡をしていた。

法務部の担当が先程挨拶に来てくれ、『とにかくめちゃくちゃなんです』と弱り果てたように言っていたのを思いだし、先が思いやられるとため息をついた。

(何日かかるか分からないと泣き言を言っていたところを見ると、早瀬さんに連絡をした方がいいわよね…せっかく連絡をくれたのに会えないだろうな)

その日は早めに帰り、荷造りをした。

(3日かかるか、10日かかるか…早く終わるといいな)

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