H ~ache~
ドアが控えめにノックされ、環が飛び退くように離れると早瀬は空いている椅子に座った。

「失礼します」

先程退室した課長達が入ってきた。
高梁は環を見ると、睨むような鋭い視線をぶつけていたが、環は無視した。

「…3日だ」

(3日?)

「あと3日でこの仕事を終わらせろ。管理職であっても資格はもっているんだろ?」

早瀬の問いかけに法務部の課長は、はいと返事をした。
高梁はほぼ直立不動になり頭を深々と下げ、隣にいた法務部の課長も丁寧に頭を下げている。

「この仕事を手伝え。休みも与えずに仕事をさせるとは何を考えている?この二人には明日、明後日休ませろ。その間お前たちが仕事をしろ」

(仕事は私に任せるって言ったのに)

「オレは仕事で3日間福岡にいる。それまでに財務状況を報告しろ」

3日で仕上げろとは無茶な事を言う。
その場にいた全員はそう思ったが、早瀬はニヤリと笑って高梁を見た。

「応援を呼んでもいいぞ?」

「仕事が終わってから休みを下さい」

環が言うと、早瀬は冷たい視線を向けた。
高梁は、何を言いだすのだという顔をし、早瀬の側付き達は表情を変えずに成り行きを見ていた。

「おまえは言うことをきかない女だな」

「3日で納得がいく数字にするためにお休みは後に取らせてください」

「休まずに仕事をして、効率の良い仕事が出来るのか」

理にかなった事を言われて環は口をつぐんだ。
だが、視線は早瀬に止めたまま何かを訴えていた。

「及川さん、お休みください。お願いします」

側についていた男にも言われ、環は渋々頷いた。

「一時間で引き継ぎをしろ。いいな?」

「はい!」

高梁が怯えたように返事をし、法務部の課長は東京に連絡をとりはじめた。
環はやりかけの仕事を片付けるために席に戻ると早瀬は部屋を出ていき、側についていた男も出ていった。

「及川、何から始めればいいんだ」

「そうですね…請求書の整理をお願いします」

「分かった、これだな」

「はい」

(早瀬さんを恐れているって聞いたけど、本当なんだ。何があったんだろう…)
今度、紗和か那奈に聞いてみようと思い仕事を続けた。
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