未知の世界5
『……かなちゃん。』
吸入が終わり、未だにむせている私に進藤先生が目の前に腰を下ろす。
『あまり聞かないようにしてたけど、先日退院してった患者さんの件でだいぶやられたんじゃない?』
進藤先生は私が施設に入ってた当時にはこの病院にはいなかったけど、ここに来てから私が過去を思い出して苦しんでいたことは知っている。
その時は進藤先生と幸治さんの目の前でフラッシュバックして、進藤先生ともぶつかってしまっていた。
「……もう大丈夫です。」
『君の大丈夫が一番心配だよ。
幸治くんだっているんだ。一人で悩まないで。』
普段ふざけたことばかりを言う進藤先生が真面目な顔になる。
『かなちゃんは、体力面でのダメージより精神面でのダメージの方が大きいからね。』
よくご存知で…。
「正直今回は疲れました。でも、もう大丈夫です。あの、だから検診も…。」
『それはダメ。
もう、少し優しくするとすぐこうなんだからぁ〜』
と笑う進藤先生。
だけど、すぐに真面目な顔になり、
『君は大切な大切な患者であって、部下でもあって、仲間でもあって、娘のような存在だ。
こうやって吸入一つで苦しむ姿は本音を言うと見ていて辛い。僕には少しでも喘息で苦しむ君を助けてあげたいと思ってる。
だから苦しい治療や気の進まない治療に耐えてもらってる。
だから無理はしないで。』
そう言うと、進藤先生はギュッと私を抱きしめ、すぐに体を離した。
それは私の最近の心境を察して、試したのかもしれない。またフラッシュバックを起こすかどうか。
それとも私を本当に娘のように想ってしてくれたことなのかもしれない。
そんなことはどちらでも良かった。
私には温かい人たちに囲まれている、それが今では心から受け入れることができる。
もう大丈夫…。