未知の世界5

目を閉じていると扉が開く音がする。






誰か入ってきたな…。







そっと額に手を当てられる。






背中に聴診器が当たる。






起きてることがバレないように静かに呼吸する。







……にしても、長い。








もしかして、この先生は。







ゆっくり目を開けて、後ろを振り返ると、






『あ、起こしちゃったかい?』







やっぱり、お父さんだ。







「お父さん……。」







思いがけない人の登場で、涙が頬を伝う。






『どうした?』








その優しい表情に太い声はまるで幸治さんにそっくりで、さらに涙がこぼれおちる。






『大丈夫だよ。』






私の頬を伝う涙を手で拭う。







「……早く、帰り……たい。」







お父さんに言ってもしょうがないんだけど、他の誰に言っても聞いてもらえない。





『もっと回復してきたらね。』







そんなに悪化してる?







口に出してはないけど、お父さんには分かったのか、






『体が疲れて、喘息が酷くなってる。それによって、心臓も疲れやすくなってるんだ。





今は休んで、食べて、前のように動けるようになって、それから外を歩いたりして体力を回復させることだよ。』







「そんなにっ!?」







『あぁ。小児外科のプロジェクトで疲れちゃったかな?






まぁ、君だけじゃなくて、たけるくんも疲れてるようで。熱が出てきたと言って、今日は帰って行ったよ。』







そうだったんだ……。








『だから、大丈夫。君だけじゃないんだよ。早く良くなったら、また外科医目指してやることがたくさんあるんだからね。今はしっかり休んだらいいんだよ。』








そう言うと、胸元のボタンを一つずつ丁寧に留めはじめた。







いつのまに胸の聴診まで……。







最後に布団をかけられ、額に大きな手が被さってきたので、目を閉じると……







そのまま夢の中に入っていった。
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