未知の世界5
『かな…大丈夫か?』
ハッとして目を開ける。
寝てたんだ。
『起こしちゃった?頭痛と目眩はどうだ?』
幸治さん…。
答えるよりも先に幸治さんの大きな手が、私の頬に触れる。
今は医者である幸治さんよりも、夫である幸治さんを意識してしまうと、ナースステーションから丸見えなことに少し恥ずかしくなる。
照れ隠しで軽く手を払いながら、大丈夫だと答えるけど、すぐにその優しくて大きな手に私の手首は掴まれる。
『じっとして。』
静かに言いながら、時計を確認して脈をとる。
『落ち着いてるな。熱もないし。
気持ち悪くないか?』
私の顔を覗き込む幸治さんにドギマギしながら目をそらす。
「今は…大丈夫です。」
『貧血の薬、持ってるか?』
幸治さんは気づいていた。
「いえ、特に自覚症状もなく飲んでいない時に入院したので。
知らない間に酷くなってました……。
ごめんなさい。」
優しくされて、つい本音が出た。
何も言わず、大きくて優しい手で私の頭を撫でる幸治さん。
子供扱いされたようにも思えたけど、今はそれが嬉しかった。
『進藤先生に伝えておくから。』
「ありがとう…ございます。」
『じゃあ、俺はまだ仕事残ってるから。終わったらそのまま帰るな。』
そう言うと、持ってきてくれていた水の入ったペッドボトルを冷蔵庫に入れてくれた。
「あ、あの……幸治さん。」
扉を出ようとしている幸治さんに、声をかける。
「家のこととか……すいません。」
『ん?そんなこと気にするな。』
そう言うと再び私のベッド側の椅子に座る。
『いつも忙しい仕事の合間にいろんなことやってくれて、助かってる。これじゃあ持病がなくても倒れるよな…。
今はゆっくり休めよ。』
ここ最近、何一つ誰からも優しい声をかけてもらえず気持ちが落ち込んでいたところを、幸治さんから優しく声をかけてもらって、目頭が熱くなった。
『じゃあ行くな。』
そう言うと、幸治さんは部屋を後にした。
扉が閉まると同時に、涙が溢れ落ちる。
喘息が苦しくて泣くことがあったり、悔しくて惨めで不甲斐ない自分に涙することはあったけど、人の優しさに触れて泣くのは久しぶりかも知れない。
冷静に自己判断しながらも、涙が次々と溢れ落ちる。
次第に目が疲れて、瞼が重くなってきたところに、睡魔が襲ってきて……。
私は眠りに落ちた。