未知の世界5

「うわぁ、美味しそう。」





進藤先生の手作りの朝ごはんは、和食だった。





魚は程よく焼けて、卵焼きはふっくらしている。納豆までも用意されていて、、、こんなに食べれるかしら……。




でも美味しい。






『いつもかなちゃんの作ってくれる料理には敵わないけどね。』






「いやいや、私、こんなに朝から手の込んだものを作れません!進藤先生、すごいです!」






あの入院中の……いや、主治医として私を診てくれている進藤先生の姿からは想像できないほどの家庭的な一面に驚いた。





『さぁさ、食べよう。』





そうして、椅子に腰掛けた。





こんなに美味しそうなら、食べれそうな気がする。





いつも病院食で箸が進まなかったけど、目の前の進藤先生の料理なら、食べれる気がした。





「美味しい……。」






いつもなら途中までしか食べれないご飯。おかずが美味しいおかげで綺麗に食べれた。






最初から少なめに作ってくれた魚も卵焼きも、そのおかげで食べることができた。





『今日はすごいね、完食してるね。』






「美味しくて。久しぶりにこんなに美味しいものを食べた気がします。
ご馳走さまでした。」






『いえいえ、どういたしまして。
独身生活が長いから。』






そう言えば、進藤先生ってずっと独り身なのかな?






「あの……先生は、その……。」






つい口に出てしまったものの、それ以上聞けない……。






『独身だよ。ずっとね。』






そうなんだ……。もったいない。





顔もスタイルも抜群で、若く見えるのに本当にモテない?





あ!?もしかして……。






再び進藤先生を見る。





『かなちゃん……。言いたいことは大抵分かっちゃうんだけど。





僕は男性が好きではないからね。どちらかと言うと、女性が好きかな。』






う、バレてた。






「見た目がとてもカッコいいのに、何で結婚されてないのかなぁ……って思ってしまって。







すいません……。」







『ハハ。それは嬉しいな。






昔はいたんだけどね…。その人と結婚できると思ってたんだけどね。』







「えっ!?」






もしかして亡くなったとか!?





『あ、死んでるとかじゃないから。





僕じゃない人を選んだの。』






「あ、そういうことですか……。」





それもまたすいません……。






『彼女の選んだ人も医者だったんだ。しかも、病院長の息子。




僕には何もなかったからね……。それに、忙しくてあまり一緒にいられなかった。全て僕が悪いんだけどね。』






「いえ、そんなことはないと思います!進藤先生は仕事に一生懸命過ぎることがいけないことかと思いますけど、それでも彼女さんをきっと大事にされてたと思います。





何も知らないけど……、進藤先生は悪くないと思います……。すいません……。」








と何も知らないのに確信を持って言ってしまった……。





『ハハっ!かなちゃん、ありがとう。





まぁ、あれから結婚してたらきっと今の病院で働いていたかわからなかっただろうし、かなちゃんに会えたかどうかも分からない。これはこれで、また僕には良い人生だと思うよ。』





なんだか聞いてしまって良かったのか分からないけど。前からの疑問が解けたから、スッキリした気持ちだった。








気持ちが軽くなって、つい食べ終わった食器を片付けようと立ちあがる。






『ダメダメ、かなちゃん!






僕がやるから。それより、薬飲んで。』






あ……、主治医に戻った。













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