俺様社長と極甘オフィス
伝わりませんが本気です(聞いてる?)
 昨日の役員会の議事録をまとめていた手を止めて、時計を確認する。午前七時半過ぎ。一時間前に電話を入れたから、そろそろのはずだ。

 私は立ち上がって部屋に備えつけの電話に手をかけると、ほぼ指が覚えてしまった番号を打ち、お決まりの文句を告げた。そしてタイミングよく受話器を置いたのと同時に部屋の扉が開かれる。

「おはよう、藤野」

「おはようございます」

 欠伸を噛み殺して現れたのは、私のボスでありB.C. Building Inc.の若き社長でもある紀元京一(きもとけいいち)だ。

 背も高く、ヨーロッパのブランドスーツも嫌みなく着こなしている。精悍な顔立ちに、瞳は大きく優しげで、その見た目だけで第一印象は高得点だ。さらにはその巧みな話術で、初対面の人間にもあまり警戒心を与えることなく距離を縮めていく。

 それが天然なのか計算なのかは、いまだに私も測りかねているわけだけれど。

「律儀に電話をくれるくらいなら、起こしに来てくれたらいいのに」

 そう、こんなふうに。

「私は社長の恋人でもなければ、母親でもありませんから」

「相変わらず堅いなー」

 それには返事をせず、自分のデスクでパソコンを立ち上げている彼の元に歩み寄る。もみあげと襟足はナチュラルに刈り上げられ、すっきりさせているがトップの髪は緩やかに長さを残しているので固すぎず穏やかな印象を与える。

 染めたことはないであろう黒髪は彼によく似あっていた。こうして三十二歳にしては随分と落ち着いているような雰囲気をまとっているのに、口を開くとなんともそのノリは軽く、このギャップに頭が痛くなるときが多々ある。
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