俺様社長と極甘オフィス
『笑ってくれたってことはOKってことかな?』

 ここまでくると頑なに拒む理由も見つからない。アメリカ暮らしのおかげで、背の高い男性は見慣れているが、彼もけっして引けを取らない。

 高級そうなスーツを着こなして、顔立ちも十分に整っている。私の人生で、直接かかわることがないような人種だ。彼にとって私も、きっとそうだったのだろう。だから、ほんの好奇心だったのかもしれない。

 連れて来てもらったのは七階にある比較的カジュアルなフレンチのお店だった。なんとなく歴史を感じさせるような造りはわざとなのだろう。

 くすんだ色の定番の赤い椅子、ダークブラウンの机の上にはもちろん白のテーブルクロスがかかっている。

『藤野さんの名前って、七つの海って書いてななみなんだ。海なのに空が好きなんだね』

『空から見る海が好きなんです』

『なるほど』

 彼は話し上手だった。私もあまり物怖じしないタイプではあるが、彼は気取っているわけでもなく、話題の振り方もなにもかもがスマートで、思った以上に心地のいい時間を過ごせた。

『俺も名前に数字が入ってるから、なんか運命を感じるな』

『それなら、私よりもあの女性スタッフさんの方が運命だと思いますよ?』

 先ほど、料理を運んでくれた女性スタッフに私は視線を送る。彼も私の視線の先に目を向けながら、訳が分からないという顔をしていたので、私は軽く笑った。
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