俺様社長と極甘オフィス
『胸につけてあったネームプレートに名前が書いてありました。おそらく“一花(いちか)”さんだと思います。同じ一がついていますし、声をかけなくていいんですか?』

 口角を上げて尋ねると、急に彼は苦虫を噛み潰したような顔になった。

『もしかして俺が、こうやってしょっちゅう女性を口説いてるって思ってる?』

『はい』

『……そこは、思ってても普通は否定しない?』

『すみません。でもあなたみたいな人は、それが許されるんだと思います』

 少し一緒にいるだけで分かる。彼は非常に頭のいい人だ。そして、この慣れた感じは、どういう意味であれ、女性に不自由したことはないのだろう。

 彼と過ごす時間はあっと言う間に過ぎた。そして帰り際に、これからもよろしくね、と告げられ、採用通知をもらう前に、私は採用が決まり、それに応じることになっていたのだ。

 そして後日、正式に採用通知が届き、再びこのビルに訪れたときに告げられた衝撃的事実。なんでもヘリの操縦の仕事を第一にするも、そのほかのときには専務の、紀元京一氏の秘書として働くというものだった。

 たしかに特別従業員枠での採用とは聞いていたし、まだ企画段階で、その諸々の会議に出席はするものの、毎日ヘリの操縦が必要というわけではない。

 だからといって、なぜ秘書なのか、なぜ彼なのか。

 英語に自信があるものの、ビジネス英語となると話はまた別だろうし、私は秘書としての経験もほとんどなかった。

 それでも、ここで採用を蹴るような真似はしない。自分のボスとして現れた彼は、最後に会ったときと同じような笑みを浮かべていた。こうして戸惑いつつも、私は操縦士と彼の秘書を兼任して働くことになったのだ。
< 11 / 100 >

この作品をシェア

pagetop