俺様社長と極甘オフィス
嫌なら嫌と言いましょう(遠慮してる?)
「こんにちは、田中さん」

「ななちゃん、今日も懲りずに京一くんの代わりに挑戦するのかい?」

「はい、時間もありませんから。頑張ります」

 社長が商談をしている間、私はB.C. square TOKYOの地下五階にある管理室に足を運んでいた。出迎えてくれたのは白髪交じりの髪をオールバックにし、穏やかな笑顔を浮かべている田中一郎(たなかいちろう)さんだ。

 社内では癒しの田中さん、なんて呼ばれていたりするけれど、彼はただものではない。

 なんたってこのビルの最高管理責任者でもあるのだ。建築物環境衛生管理技術者の資格を持ち、三種電気主任技術者に一級電気工事施工管理技士、特定防火対象物点検資格者、特級ボイラー技士など、ビルを管理するために持っているための資格は数知れない。

 田中さんのお父さんと、前一氏が知り合いだった縁もあり、このビルができたときから親子二代にわたって管理してくれている。なので、社長を幼い頃から個人的に知っているので京一くん、なんて呼んだりするのだ。

 私は挨拶をすませたあと、勝手知ったるフロア内に足を進める。数々のモニターは社内の防犯カメラの様子が映し出され、空調や電気が正常に作動しているかどうかなどのメーターがエリアごとに分かれてずらりと並んでいる。

 ついているランプはほとんどがグリーン。いつ見ても圧倒され、ヘリの操縦席の比ではないと私は思う。

 そして、奥の一角には少しだけ変わったドアがあった。コンピューターで制御されたこの部屋には似つかわしくない、灰色の地味な扉。非常口か倉庫にでも通じているような印象だが、そうではないのだ。

 私は思い切ってその扉の横にある銀のパネルを開ける。黒くて丸いボタンに白い文字。ひらがなの五十音図が顔を出し、入力を待ち望んでいた。
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