俺様社長と極甘オフィス
「嫌がらないの?」

「嫌がってほしいんですか?」

 しておいてからする問いかけではないと思うけれど。パニックになりそうなのを必死に抑えて、過剰反応するのもいかがなものかと思い、私は極力冷静に返事をした。

 社長は元々スキンシップが過多なところもあったし、もしかして私の反応を試しているのかもしれない。ここで顔を赤らめたり、変に反応してしまったら、今までの女性秘書たちと同じだと思われてしまう。

 そうなるとそばに置いてもらえないかもしれない。それは嫌だ。

「嫌なら拒否してくれないと。あっちじゃこれくらい普通?」

 あっち、と言われたのが私が住んでいたアメリカであることは分かった。

「どう、でしょうか。少なくとも、上司とこんな濃密なハグはしないと思います」

「そう。じゃぁ、なんで藤野は許してくれるの? 嫌なら嫌って言わないと。それとも、これくらいなんでもないこと?」

 なんでもないことのわけがない。私の異性との経験なんてたがか知れている。現に心臓はバクバクと音を立てて痛みさえ伴ってきた。

 顔を見ることはできないが、声がいつもよりずっと近くて、耳にかかる吐息に神経が集中する。もしかして今更ながら、ボス相手にもちゃんと嫌なことは嫌だと言えるか確認したいんだろうか。

 それならやり方が間違っている。だって嫌ではないのだから。なにも言わない私に痺れを切らしたのか、耳たぶにそっと唇を寄せられた。
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