俺様社長と極甘オフィス
「んっ」

 つい肩をすくめて反応してしまった。思わず漏れてしまった自分の声に、全身の血が沸騰しそうになる。なんでもないことなのは、どう考えても社長の方だ。きっと私だけが、動揺を必死に隠している。

 抱きしめられた腕の力が強められて痛いくらいだ。でも不快さはない。どうしてこんなことをするのか、こういうとき秘書としてどうするべきか。そのとき、最初に社長に言われた言葉を思い出す。

『ちょっと充電』

「……女性不足ですか?」

「は?」

 顔を後ろに向けて真顔で尋ねると、社長は驚いた顔をしていた。腕の力が緩んだので、急いで立ち上がり、彼の方に向き直る。顔が赤いのを悟られたくなくて、私は俯きがちに早口で捲し立てた。

「社長に就任されてから、あまりプライベートな時間をとれていないので。どなたかお会いしたい女性でもいますか? 段取り、スケジュール等調整しますよ?」

 秘書としては完璧だと思われる答えだ。私が秘書になってからは、仕事の付き合いではたまにあるけれども、社長はあまり女性と会わなくなった。

 いや、女の私に気を遣って、そういうのを出さないようにしてくれているのかもしれないけれど。

 でも、彼は元々外見も地位も申し分ないし、性格だって優しくてスマートだ。ひとりの女性と長続きすることはあまりなかったみたいだが、それでも会う女性には困らないと、秘書の仕事を引き継ぐときに、男性秘書たちから色々聞いた。
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