俺様社長と極甘オフィス
「とりあえず今みたいに、たまにハグさせてもらえれば」

「そんなのでいいんですか?」

 ちょっと拍子抜けした私に社長は、眉を曇らせる。

「え、なに? もっとすごいことを要求していいわけ?」

「いえ、そういうわけではないんですが」

 よく考えればこれ以上のことは恋人同士がすることだ。いや、でも抱きしめるのは、恋人ではなくてもありなんだろうか。

 なんだかよく分からないまま、言葉尻を弱くして否定する私に、社長はまっすぐな眼差しを向けてきた。

「お願いしておいてなんだけど、これは仕事ではなく個人的な頼みだから。藤野には断る権利があるんだよ。だから嫌ならちゃんと断りなさい」

 なんでそんな改めて子どもに言い聞かせるような言い方をするのか。何度も何度も嫌なら、ってそればっかり。そこまで念押しされてしまうと逆に不安になる。

「社長は、ずいぶんと私に嫌がってほしいみたいですね」

「嫌がってくれないと、調子に乗るから」

「誰がですか?」

「俺が」

 どうして社長が調子に乗るのか。なんだかさっきから社長と話がかみ合わない気がするが、もう深く考えるのはやめることにする。仕事のことではないし。

 たしかにこれが仕事としてボスに要求されたら、セクハラもいいところだ。でも、これは個人的なお願いで、さっきは自分でああ言ったが、私が断ったら、社長は別の女性にお願いするのかもしれない。

 それを想像すると胸が切られたように痛む。だから、
< 24 / 100 >

この作品をシェア

pagetop