俺様社長と極甘オフィス
「いいですよ。ただし仕事中はやめてくださいね。仰るように個人的に了承しますが、節度は守ってください」

 いつもの仕事口調で告げると、社長は大きな瞳をさらにまん丸くさせた。口に手をもっていき、わなわなとなにかを噛みしめている。

「それは、つまりプライベートで甘えさせてくれるってこと?」

「なにかその解釈はしっくりきませんが、まぁそうですね」

 社長は握り拳をぐっと作って、私に背を向けた。そして部屋を出る直前でこちらに顔を向ける。

「午後の会議は予定通り金本(かなもと)を連れていく。仕事が終わったら、五十二階のことを話そう。極力早く終わらせてくるから」

「私はかまわないので、先方の都合を優先させてください」

 そんなことをわざわざ私に高らかに宣言していかなくても、と思ったが、社長は手を振って機嫌よく部屋を出て行ってしまった。

 ひとりになった部屋で私は長く息を吐く。私も本業はヘリの操縦なので、社長の秘書は私だけではなく、他にも男性秘書が何人かいる。

 けれども、この広い社長室で、秘書として仕事をしているのは私だけだ。そして五十二階のことを知っているのも秘書では私だけだった。

 だから、今の私の仕事は社長のサポートをしながらも、空いている時間に前一氏のことを調べて、少しでもパスワードだと思われる言葉を探すことだった。

 社長として就任し四か月。約束の期間まで二か月を切っていた。
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