俺様社長と極甘オフィス
元々は彼の父である正一(せいいち)氏が社長で、彼は専務だった。しかし彼の祖父であり、B.C. Building Inc.の創設者でもある前一(ぜんいち)氏が亡くなったことで、事態は一変。
前一氏は、ここまで会社を大きくしたわりに、地位にはあまり興味がない人だった。むしろ堅苦しい社長の椅子を息子である正一氏に早々に明け渡すと、自分はその才覚を活かし、個人的にもつ自分の不動産を雪だるま方式で大きくしていった。
不動産王と呼ばれるほどの前一氏の資産は、日本だけに留まらず、諸外国にも及ぶ。彼が亡くなって、それらをすべて相続することになり、正一氏もまた、さっさと息子に社長の座を譲ると、そちらの管理などに奔走することになったのだ。近々、新しいビジネスを始めるとの噂も聞いている。
おかげで新社長となった彼は以前にもまして仕事の量も増え、忙殺されている日々だ。そして、
「あっちの方は、収穫なし、か」
独り言のように呟かれた言葉に私は伏し目がちになった。彼は画面から目を離し、ため息混じりに立ち上がる。その身のこなしはなんとも優雅だが、そこで私はあることに気づいた。
「すみません、社長。少しよろしいですか?」
返事を待たずに、さらに彼との距離を縮めると、首もとに手を伸ばした。ネクタイが微妙に曲がっている。これから大事な商談があるのだ、いくら見目がよくてもこういうところもちゃんとしていないと。
ブラックとネイビーのストライプ柄を正し、私は手を離した。
前一氏は、ここまで会社を大きくしたわりに、地位にはあまり興味がない人だった。むしろ堅苦しい社長の椅子を息子である正一氏に早々に明け渡すと、自分はその才覚を活かし、個人的にもつ自分の不動産を雪だるま方式で大きくしていった。
不動産王と呼ばれるほどの前一氏の資産は、日本だけに留まらず、諸外国にも及ぶ。彼が亡くなって、それらをすべて相続することになり、正一氏もまた、さっさと息子に社長の座を譲ると、そちらの管理などに奔走することになったのだ。近々、新しいビジネスを始めるとの噂も聞いている。
おかげで新社長となった彼は以前にもまして仕事の量も増え、忙殺されている日々だ。そして、
「あっちの方は、収穫なし、か」
独り言のように呟かれた言葉に私は伏し目がちになった。彼は画面から目を離し、ため息混じりに立ち上がる。その身のこなしはなんとも優雅だが、そこで私はあることに気づいた。
「すみません、社長。少しよろしいですか?」
返事を待たずに、さらに彼との距離を縮めると、首もとに手を伸ばした。ネクタイが微妙に曲がっている。これから大事な商談があるのだ、いくら見目がよくてもこういうところもちゃんとしていないと。
ブラックとネイビーのストライプ柄を正し、私は手を離した。