俺様社長と極甘オフィス
「分からなくないよ。藤野の方がよっぽどよく知っている」

 しかし言われた言葉は、やっぱり理解できなかった。それを訊き返す前に社長が続ける。子どもがクイズを出すみたいな無邪気さだった。

「まんまだよ。藤野はB.C. っていうと一番になにを思い浮かべる?」

「B.C. というと……あっ!」

 私はそこで声をあげた。そして頭の中ですべてが繋がると、すっきりしたような。少しだけ前一氏のイメージが変わる。

「そう。B.C. はBefore Christ。つまり紀元前 。そしてじいさんの名前は?」

 紀元前一だ。つまり前一氏は自分の名前をこのビルに託したのだ。数ある不動産を持っていながら、やはりここは彼にとって特別だったのだろう。

「面白いですね」

「な、ユーモアある人だろ? それにここが五十五階なのはじいさんの誕生日が五月五日だったから、だと思っている。わざわざ竣工式もその日に合わせてやったって聞いているし」

 曖昧ながらも社長の言いたいことは分かった。今度は私も微笑む。

「なるほど、社長のお誕生日は五月二日ですからね」

 五十二階。最上階でも最下階でもなく、なんとも中途半端なフロアをどうしてプライベート空間に前一氏はしたのか。本当のことは分からない。けれど社長の推測は当たっているような気がした。
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