俺様社長と極甘オフィス
 食事を終えてから我々は一度社長室に戻る。あれから色々と話し、実際にあの五十二階を訪れたことのある人に話を聞いてみよう、ということになった。

 前一氏が信用し、親しくしていた人たちだ。彼らの名前を入力したが、直接は会っていない。当時は珍しいパスワードの入力式のロックだ。

 もしかしたら、話題になりパスワードのまんまとはいかなくても、なにかヒントになりそうな会話を交わしていたかもしれない。

 早速、段取りしようと私はメールをしたためる。いつもこの部屋にはふたりでいることが多いけれど、時間が時間だからか、いつもよりも静かに思えた。

 リズミカルにキーボードを叩く音がやけに部屋に響く。そして、作業を終えたところで私は立ち上がった。

「送信しました。明日、先方には改めてお電話差し上げます」

「こっちもメールの確認は終えたよ。これで今日の仕事は終わりだ」

 社長もおもむろに立ち上がったので、私は姿勢を正した。

「では、私は失礼します。夕飯、ご馳走様でした」

「ちょっと!」

 頭を下げて踵を返そうとしたところで声がかかる。

「充電は?」

「はい?」

 思わず上擦った声で訊き返してしまった。しかし社長の顔は至って真面目だ。

「藤野が言った通り、仕事が終わったんだからかまわないだろ」

「今日はもうしませんでしたっけ?」

「あれじゃ全然足りない」

 思わず言葉に詰まってしまう。しかし約束は約束だ。私はしばらく言葉を発しないでいたが、ややあってから観念したように肩を落とした。
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