俺様社長と極甘オフィス
いつも救わればかり(許してくれる?)
「そうそう、前一くんに一度だけ連れて行ってもらったことがあるよ、驚いたな。なんたってビルの地下にあんな隠しエレベーターがあるんだから」

 仕立ての良さそうな濃緑の和服に身を包んだ老人が声をあげて笑った。ここはB.C. square TOKYOの最上階、五十五階にある会員制VIPラウンジだ。

 限られた人間しか利用することができず、黒とダークブラウンを基調とした上質な造りは、訪れている人間も上流階級の人間がほとんどだ。

 談笑する声に混じって、大きなビジネスが動く気配を見せ、実はここで、会社の重要な決断がされている場合もあったりする。

 私がここにいるのはもちろんプライベートなんかではない。社長の秘書として仕事で付き添っているだけだ。

 黒い革製の高級なソファに座り、ローテーブルにグラスがふたつ。中身はコニャックの中でも最高品質のグランド・シャンパーニュだ。芳醇な香りがここまで届きそうで、私は社長の後ろで事の成り行きを見守るように立っていた。

 社長は今、鹿山電機の会長を務めている鹿山昭三(かやましょうぞう)さんと話している。すっかり頭頂部は寂しくなっているが、その分、顎鬚を伸ばし、どこか貫禄が漂う。

 前一氏とビジネスを通して個人的に親しかったという鹿山さまは、彼に連れられ、五十二階を訪れていた。

「エレベーターに乗る前になにか打ち込んでいませんでしたか?」

「あったねぇ。当時にしては珍しい鍵だった。奥方の名前にでもしているのかい? なんて尋ねたら、そんな個人的な情報ではないって真面目な顔で返されたよ」

 今の発言は大きなヒントだ。一瞬、社長と目配せする。
< 35 / 100 >

この作品をシェア

pagetop