俺様社長と極甘オフィス
「祖父はどういうものが好きだったんでしょうか? 亡くなって祖父の遺品を整理しても、あまり生前の様子が想像できなくて。孫から見ても、怖い人でしたから」

「前一くんは冗談を言うような人間じゃないからなぁ。孫の京一くんがそう思うのも無理はないか」

 その発言に鹿山さまは口を大きく開けて笑った。彼にとって社長は、ビジネス相手というより前一氏の孫という感覚なのだろう。鹿山さまはグラスを手に取り、中身をそっと揺らした。

「彼は仕事としての資産をたくさん持っていて、ビジネスに興じていたが、個人的に好きなものというのは知らないな。部屋を訪れたときも、なにかコレクションというものはひとつもなくて、仕事に関するものばかりが置かれていたよ」

「そうですか」

 どうやら引き出せる情報はここまでらしい。しかし、そこで鹿山さまが「強いて言えば」となにかを思い出すように切り出したので、我々に緊張が走る。

「数字が好きだったよ」

「数字、ですか?」

 確認するように反復すると、鹿山さまは自身の顎に触れながら、曖昧に頷いた。

「数字というより数、かな。私もそうだが、仕事柄、数字を目にすることはたくさんあったからね。数の概念は世界共通なのに、表し方は色々あって面白い、と普段あまり感情を出さない彼が珍しくそんなことを言うから、なんとなく印象に残っているよ」

 それを告げてから、鹿山さまが時計を確認するので、社長も腰を浮かせる。もういい時間だ。丁寧に挨拶をして、この場はお開きとなった。
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