俺様社長と極甘オフィス
 仕事場に戻って、私は忘れないうちに鹿山さまが話していた内容をできるだけ正確に記録する。そして、社長が言うように五十二にまつわる言葉を探し始めた。

 原子番号五十二の元素はテルル。ジョーカーを除いたトランプの枚数。仏教において、覚りの位である第五十二段は仏覚という、など。

 なんとなくピンっとくるものはないが、とにかくメモをする。試してみないことには始まらない。そんな作業をしていると、コーヒーの香りが鼻孔をくすぐった。

 反射的にパソコン画面から顔を離すと、そこには私の使っているマグカップにコーヒーを持った社長の姿があった。

「すみません、私」

 状況を理解して、急いで立ち上がる。自分の立場を顧みれば、社長に淹れてもらうなんてとんでもない。しかし社長は私を制して、苦笑しながらこちらにやってきた。

「いいよ。藤野よりは上手く淹れられていないかもしれないけど」

 そう言いながら、カップが手渡されるので、私は立ち上がったままおとなしく受けることにした。

「そんなことありません。ありがとうございます」

 なんだか妙に緊張してしまう。カップに注がれているコーヒーは穏やかな胡桃色だった。いつも私がミルクをたっぷり入れるのを社長は覚えてくれていたらしい。

 それだけで、なんだか飲む前から温かくなった。一口飲んでみると、コーヒーの苦味とミルクのコクがちょうどいいバランスで口内に広がった。
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