俺様社長と極甘オフィス
 住友さまたちを見送ってから、社長室に戻って来るまで、社長からはなにも言われなかった。私が来客のことを尋ねると、そのことだけに端的に答えてくれる。

 なにも悪いことをしていないはずなのに、なんだか空気が重たい気がした。

 自分のパソコンを立ち上げてから、今日のことを報告する前に、スーツに着替えることにする。そして隣接された小部屋に足を運ぼうとしたところで、社長から名前を呼ばれた。

 顔を向ければ、社長は一瞬、躊躇った表情を見せた。なにを言われるのか少し不安になっていると、

「さっきは勝手なことをしてごめん」

 と、怒っているのかと思っていたのに、まさか気まずそうに謝られると思っていなかったので、私はとっさの反応に困った。

「どうして社長が謝るんですか?」

 すると社長は私からふいっと視線を外す。

「いや、だって。個人的な誘いだったみたいだし、藤野の意志を無視して俺が勝手に返事しちゃって」

 悪いことがばれて、言い訳する子どもみたいだ。なんだかおかしくなって、そんな社長に、つい悪戯心が芽生えてしまった。

「まったくです。同じ秘書として磯山さんとお話ししてみたかったのに」

「え」

「嘘ですよ。なんて断れば角が立たないのかって悩んでいたんです。だからありがとうございます」

 目を丸くして固まっている社長に私は即座に答える。すると社長は大きくため息をつきながら、こうべを垂れた。
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