俺様社長と極甘オフィス
 微妙な顔をしている私の顔色を読んだらしく、社長がまっすぐにこちらを見つめてくれた。今更、なんでもないことなのに勝手に鼓動が速くなる。

「綺麗だよ。藤野は自分の魅力を全然分かっていないから」

「わ、私にまでおべっかを使わなくてかまいませんよ」

 ついつい可愛げのないことを言ってしまう。いつもなら、そうですか、ありがとうございます、で済むのに。なにを私は真面目に反応しているのか。これも冗談なのかもしれないのに。

「もしかして、藤野照れてる?」

「照れていません」

 極力、冷静に返したつもりなのに、私はつい社長から視線を逸らしてしまった。さっきと立場が逆転し、なんだか今度は社長が悪戯っ子みたいな笑みを浮かべて、私まで歩み寄ってきた。

 そしておもむろに私の頭に手をのせる。

「本当にそう思ってるって。藤野は魅力的だし可愛いよ」

「もういいです、からかわないでください!」

 私はついその手を振り払う。こんなの私らしくない。社長の戯言なんていつものことだ。真面目に返していたら身が持たない。私は社長に背を向けて、逃げるように着替えに向かった。

「何回言わせるの。俺はいつも藤野に対しては真剣だって」

 その発言を背中で受けながら、社長がどんな顔をしてそう言っているのかは知る由もなかった。
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