俺様社長と極甘オフィス
理由があるんだよね(教えてくれない?)
 あれから私はほぼ毎日五十二階まで足を運び、少しでも可能性がありそうな数字を打ち込んでいる。けれども、ロックが解除されることもなく、事態はなにも変わっていない。いや、少しだけ変わったことがある。

 なんとなくだけれど、社長がどこかよそよそしいのだ。仕事もいつも通りにこなしてくれるし、やりとりも普通だ。

 けれど、今までのお決まりの軽口もほとんどなく、充電もあのとき以来、求められることもない。いや、本来秘書である私に求めることが間違っているのだけれど。もしかして……。

 ボタンを押してエレベーターに乗り込んだところである考えが頭に浮かぶ。ちゃんと充電できる相手が見つかったのかもしれない。あくまでも仮定の話だけれど、でも、もしそうだとしたら、それはいいことだ。

 私は秘書だから社長のプライベートや心の奥底までは踏み込むことができない。けれど、そこで彼を癒してくれる存在がいるなら、それは秘書としても有難いことだ。

 有り難いことのはずなのに、私の気持ちはこのエレベーターと同じで下降の一途を辿っていた。どうしてこんな気持ちになるのか。

 閉所恐怖症というわけではないけれど、この閉ざされた密室の中ひとり、さらには地下五階から五十二階まで止まることのないエレベーターは、私の心を不安にさせる。

 言い知れぬ圧迫感からか、息が苦しくなった。なんとなくこの前みたいに社長にそばにいてほしいと願ってしまう。それは今だけの話なんだろうか。
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