俺様社長と極甘オフィス
「たまには、私の充電にも付き合ってください」

 いつもの冷静さなんて微塵もない。なんて返されるのか、どう思われるのか。色々な感情が複雑に絡み合って、泣きそうになる。

 社長の顔が見えないまま、腕の力を強めると、伝わってくる体温はいつもより温かく感じた。私が外に出ていたからだろうか。

 そのとき、ぐいっと体を押された。あっという間に密着していた部分が離され、私は目を見張る。

 眉を曇らせて、なんだか困ったような、焦ったような表情をした社長が視界に入った。社長は私を支えるようにその両手を肩に置いていた。

「どうした、藤野。こんなことして。らしくもない。なにがあった?」

「なにもありません。いけませんでしたか?」

「そういうことじゃない。でも、なにもないのに藤野はこんなことするような奴じゃないだろ」

 私は奥歯を噛みしめた。なんで、私の心はこんなにも乱されっぱなしなのに、社長はこんなにも冷静に返してくるのか。

 いつもこちらの都合おかまいなしに抱きしめたり触れたりするくせに。なんで私には理由を求めてくるのか。なんで……。

「なら、社長が私に触れる理由ってなんです? どうして社長は……」

 泣きそうになるの堪えて、それ以上言葉にできない。私と彼とでは立場が違いすぎるのに同じようなことを求めるなんて、秘書失格だ。
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